「第11回 鹿児島大学焼酎学シンポジウム~世界へ飛び出せ!発酵食品~ 参加レポート





平成26年10月31日(金)に開催された「第11回鹿児島大学焼酎学シンポジウム~世界へ飛び出せ!発酵食品~に参加し、その内容をレポートとしてまとめました。鹿児島県産の食品類をいかにして海外へ広めていくかが主題でしたが、内容は鹿児島県産食品類のみならず、日本国内食品類の海外展開にも通じる内容だと感じました(尚、鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センターでは、鹿児島県、鹿児島県酒造組合、およびSSI(日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会)との連携により「焼酎マイスター養成コース」を実施しております)。

(1)開催概要
・テーマ:第11回鹿児島大学焼酎学シンポジウム~世界へ飛び出せ!発酵食品~
・日時:平成26年10月31日(金)
・時間:13:00~17:00
・場所:鹿児島大学 農学部101講義室
・主催:鹿児島大学農学部
・後援:鹿児島県、鹿児島県酒造組合、特定非営利活動法人発酵文化推進機構、株式会社日本政策投資銀行南九州支店、公益社団法人鹿児島県工業倶楽部、公益財団法人かごしま産業支援センター、鹿児島県農産物加工推進懇話会、南日本新聞社

(2)セミナー内容
1)開講挨拶 (冨永茂人氏。鹿児島大学農学部長)
2)基調講演Ⅰ13:10~14:10(60分)「鹿児島県産発酵食品、焼酎の海外進出の可能性」
(小泉武夫氏。東京農業 大学名誉教授・鹿児島大学客員教授・特定非営利活動法人発酵文化推進機構理事長)
3)基調講演Ⅱ14:10~15:10「食の世界遺産『和食』の欧州での人気とこれからの発酵食品の展開」
(二瓶徹氏。一般財団食品産業センター 振興部主任)
4)講演 統一テーマ「発酵食品の輸出の現状、課題および展開」
①15:25~15:55(30分)「鰹節」(小湊芳洋氏。枕崎水産加工協同組合 参事)
②15:55~16:25(30分)「本格焼酎」(八木健太郎氏。八千代伝酒造(株) 専務取締役)
③16:25~16:55(30分)「黒酢」(長野正信氏。坂元醸造(株) 専務取締役)



1)開講挨拶
(冨永茂人氏。鹿児島大学農学部長)
鹿児島県には、温暖な気候を活かした食品類が多数存在し、その機能性なども全国に認められているが、国内人口が減少する中、海外市場の開拓こそが今後の大きな課題であると述べられた。

2)基調講演Ⅰ「鹿児島県産発酵食品、焼酎の海外進出の可能性」13:10~14:10(60分)
(小泉武夫氏。東京農業 大学名誉教授、鹿児島大学客員教授、特定非営利活動法人発酵文化推進機構理事長)
まず国立大学は、地方産業の活性化が大きな役割であり、このようなシンポジウムは大変意義があると挨拶。そして、昨年12月に「和食 日本人の伝統的な食文化」がユネスコ世界無形遺産に登録されたことが今後、日本産食品類の拡大にとって強力な追い風となるが、同時に海外で供される和食と日本の和食が大きくは異なると注意を促された(日本人が経営する正当な和食店の数は非常に少なく、アレンジされた和食が多いこと等)。そして、世界各国における民族の嗜好性を調査してきた中で、日本の発酵食品のレベルは非常に高く、急速に世界に広まっていることを挙げ、日本産発酵食品の価値の高さを示唆(米国デトロイトでキッコーマンが醤油の海外生産を行ってから約40年、今や醤油とインスタントラーメンはイヌイットの村でも買えることや、現在フランスにおける鰹節の評価は高く、フランス人が旨味を理解し、興味を示していることを強調)。

次に焼酎は世界の蒸留酒の中では生産量が多いにも関わらず、世界5大蒸留酒の中に入らない理由は「物語性」の訴求が足らないからだと述べられた。生産量の少ないラムが人気なのは、「物語性」を上手くアピールしてきたからであり、焼酎の持つ物語性に目を向けるべきと強調(約120年前、マイアーズが蒸留したてのラムをイギリスに持ってかえり、冷たい場所で寝かせることで、品質を高める術を発見。そして「ジャマイカ生まれのイギリス育ちというフレーズで世界戦略を計り、見事成功した例を挙げられた)。

また、焼酎は世界の蒸留酒の中で、原料香が明確に判ることが強みと説明。特に中国人は香りの高い酒類を尊ぶので、芋焼酎などは中国マーケットに適合すると力説。さらに中国料理は油を多用する料理であり、脂を流す効果の高い蒸留酒が食事中に好まれることも説明。そして蒸留酒の中で自由に割って飲めるのは麹を使用した本格焼酎だけであること、海外では熟成した蒸留酒ほど価値が高まるので、熟成を課題として商品化に取り組むことが課題であると説かれた。

最後に、販促では日本酒業界の若手蔵元を手本にすべきと言われた。現在日本酒が海外で広まっているのは、若手蔵元自らが海外に赴き、現地の習慣や嗜好をリサーチし、相手国の流通や販売システムを理解して行動しているからだという。向こうから買いに来るのを待つのでなく、有効な作戦をたてて、こちらから攻め込む姿勢が大切であると最後にまとめられた。


SSI最高顧問も務められる小泉武夫先生。非常に深い講義内容に参加者全員が引き込まれています。

3)基調講演Ⅱ「食の世界遺産『和食』の欧州での人気とこれからの発酵食品の展開」14:10~15:10
(二瓶徹氏。一般財団食品産業センター 振興部主任)

二瓶氏は、大学院で農学と社会学を専攻し、農林水産所管法人にて、開発途上国への加工技術移転のODA、食品産業および異業種連携による食環境からの食育推進、EU型のGI制度を参考にした地域食品ブランド制度構築を担当。その後食育や地域振興を異業種連携による「ソーシャル・ビジネスモデル」を産み出すプラットフォーム(法人)を設立するとともに、制度化した地域食品ブランド「本場の本物」を2015年開催の「ミラノ万博」出展に導き、プロモーションを手掛けられているが、冒頭で日本は豊かな漁場や肥沃な農地に恵まれており、固有の食文化を形成してきたこと、その中でも各地域に根ざす発酵食品は世界に誇れる唯一無二のものであると解説。
次に海外市場を狙う必要性について、国内の人口減少、少子高齢化、世帯の小型化、進む食の外部化、高まる簡易化志向を例に挙げ、国内における大量生産・大量消費型は終焉を迎えており、今後は一つあたりの単価をあげる高付加価値化と、輸出促進の2軸による新しい顧客とマーケットを創造する必要性を強調された。
次にフランスにおける日本食品の展開事例をJETRO Parisの調査結果等を用いて解説。まずフランスにおける日本食品の良いイメージは「トレンディ」「ヘルシー」「バランスがよい」「洗練されている」こと。悪いイメージは「価格が高い」「中国、韓国、タイ、マレーシアなどで製造された日本食材と見分けがつかない」ことを挙げられた。

次に、海外展開を計る上で、フランスでの成功こそが海外ブランディング戦略の鍵となることも解説(それ程フランス人は五感が鋭く、またフランス人バイヤーの影響力が高い)。また日本酒を例にして、日本国内では「大吟醸酒」などが評価されていても、フランスでは「熟成酒(古酒)」の評価が高いなど、日本における嗜好がそのまま通用しないことも念をおされた。

また、「枕崎の本枯れ節」、「三河産大豆の八丁味噌」、「大豊の碁石茶」、「伊勢本かぶせ茶」、「飛騨・高山山椒」、「奥久慈凍みこんにゃく」、「東出雲のまる畑の干柿」など、これまでにフランスの食品展示会に出展した食品類と、その評価について丁寧に解説された中で、日本の伝統食品に関しては、食べ方指南(または試食などの体験)が欠かせないことと、日本食材は表示が判りにくく、中身が判別しにくいことを必要以上に意識すべきと言われた。また、緑茶がパリのカフェでブームになっていること、出汁は常温で飲ませる方がフランス人には甘味、旨味が理解しやすいこと、特にフランス人は香りに敏感であり、山椒などには非常な関心を示すことや、初めて口にするものに対しては誰でも躊躇するものであり、フランス人に馴染みのある食材と組合せて安心感を与えることの重要性も示された。

今後はミラノ万博などを活用し、さらなる訴求力を高めることと、パリ市内の飲食店における取り扱いを強化すること、小売店では食べ方の提案と共に、フランス産チーズ売場に飛騨高山の山椒を陳列するなど、現地の食材との組合せを提案することが課題であるとまとめられた。


一般財団食品産業センター 振興部主任 二瓶徹氏の基調講演。各種データを用いた判りやすい講義内容でした。

4)講演 統一テーマ「発酵食品の輸出の現状、課題および展開」

①「鰹節」(小湊芳洋氏。枕崎水産加工協同組合参事)15:25~15:55(30分)
②「本格焼酎」(八木健太郎氏。八千代伝酒造(株)専務取締役)15:55~16:25(30分)
③「黒酢」(長野正信氏。坂元醸造(株)専務取締役)16:25~16:55(30分)

まずは「鰹節」。枕崎鰹節工場をフランスに建てる計画を解説。その経緯については、フランスのある食の祭典に招かれ、鰹節の評価に手ごたえを感じたものの、フランス(EU)では日本の農水産物の規制が厳しく、鰹節を輸出できない。それならば鰹節工場をフランスに造ればどうかという意見がきっかけになったと説明。また枕崎は国内鰹節の約70%を生産しているが、それでも30年前に比べると、生産者数は半分に減少しており、今後未来への伝承を考えても海外を視野に入れざるを得ないこと、さらには、出汁の入っていない味噌汁を飲んだフランス人が「これが味噌汁の味なのか。あまり美味しくない」といったことに奮起し、「出汁の価値を伝えていかなければ」という使命感も動機になったそうである。
また、工場設立予定地であるコンカルノー市は、枕崎市とほぼ同じの人口2万4千人ほどであり親しみを覚えたことや、暖炉文化であるフランスでは、鰹節を燻す木材が容易に入手できることから当初の危惧が緩和されたこと。またフランス人シェフが鰹節を用いた料理に大きな関心を示している現状を報告された。


枕崎水産加工協同組合 参事 小湊芳洋氏の講演

次に、本格焼酎の展開については、八千代伝酒造株式会社 専務取締役 八木健太郎氏が、ここ数年間にわたる海外での営業活動を報告。まず本格焼酎の海外市場開拓は未知への挑戦であり、試行錯誤のアプローチを繰り返してきたと前置きされ、NYでは清酒人気が凄まじく、試飲会では1000名を超える集客があること、そしてトレンドが発生しやすいことが特徴だが、物価が高いことがネックになると説明。次に香港やシンガポールでは日本食人気が根強く、日本酒や焼酎も人気であるが、焼酎が清酒だと思っている人が多いこと、お湯割りが根付かないと説明。またアジア人には縁起のよいネーミングがウケることなどを参加者に紹介されていた。最後に海外市場は無限に広がっている訳でも、バラ色の市場でもなく、シビアな市場であると力説。1国1インポーターという現実があること、契約から実際の輸出までに1年以上かかることも珍しくないことを始めとし、資金面、人材、時間面、税金面などの様々な問題点を挙げられた。それらを踏まえた上で、「安売り厳禁」、「トップセールスの敢行」、「文化を伝える」、「伝統と革新の融合」、「高付加価値市場の創出」が今後のキーワードになるとまとめられた。


八千代伝酒造(株)専務取締役 八木健太郎氏の講演

最後に、坂元醸造株式会社 専務取締役 長野 正信氏が黒酢の輸出に関して報告。まず酢に関しては、日本からの輸出は意外に少なく、大手メーカーの現地生産品が多いことを説明。そして、環境に大きく左右される黒酢造りは現地生産は無理であるとも言われた。逆に鹿児島の気候風土だけが育む、他には真似のできない高級黒酢として、品質を落とすことなく、丁寧に造っていくことが王道であるとまとめられた。


坂元醸造(株)専務取締役 長野正信氏の講演

【感想】
本シンポジウムには、鹿児島県産食品類の海外展開を志す方を中心とした200名近い方々が参加されており、本シンポジウムに対する期待の大きさが伺えた。「高付加価値」、「文化的物語」、「健康効果」が共通するキーワードであったが、海外展開を計る上で、各国の人々の嗜好を知ることの重要性と、自国の食文化に精通しなければ、勧めることすら出来ないことを教えられた。さらに国内市場の縮小を見せつけられたことで、海外市場開拓の必要性も痛感させられた。 
また「物が良ければ売れる」という一昔前の考え方はもはや通用せず、相手の懐に飛び込んで、十分なリサーチを行い、その上で戦略を立てなければならないこと、そして最終的には販売者の実行力にかかっているとも強く感じた。
この実行力の源となるのは、地元特産品に対する愛情や造詣、そして生産者に対する尊敬の念であると思えたのは、地元を愛し、地元に誇りを持つ人々が多い鹿児島の地で開催されたシンポジウムだったからのような気がする。

レポート:FBO研究室 長田 卓